人と人がゆるやかな形でつながっていく。 友人母宅を改装して生まれた、優しい光であふれるスペース。『+cafe うぐいす』
身の回りの方々による後押しが、お店をやさしく支えてくれた
茨城県・結城駅から3kmほど、ずらり連なる畑や農場を横目に進んで行った先にひっそりと佇む一軒のカフェが。名前は『+cafe うぐいす』。トタン壁に貼り付けられた可愛らしいうぐいすのモチーフが目印です。初めての方は、くれぐれも見逃さないよう気をつけてくださいね。
一見シンプルなその建物は、まるで「住居」のような外観。まさにお家のようで、初めて見る方にはこれがカフェだとは思えないかもしれません。ですが、ご安心を。ドアを開けば、一面にぱっと夢のような世界が広がります。
「ピーコックブルー」と呼ばれる濃い青緑が印象的な店内には、店主・須賀さんの知り合いを中心としたアーティストの方々による作品たちがずらり。ハンガーラックには、飽きずに永く着られるシンプルな大人服も。
『お店でも出しているんですが、私はずっと紅茶が大好きで。お茶って、 「椿(ツバキ)」の植物なんです。ツバキは英語で “Camellia(カメリア)” と呼ばれるんですね。たまたまお店のカラーを決めるときに、「カメリア」という深い青緑色が目に入って、素敵なお色だったし、これにしよう!って(笑)』と朗らかに話すのは、店主の須賀さん。
須賀優子さん:
2013年、茨城県結城市に民家リノベーションした+cafeうぐいすをオープン。ゆるやかな時間が流れるスペースを活かし、ワークショップや貸切カフェ、展示販売など、人やモノがつながっていく場所を目指す。
『もともと、このお家は友人のお母さまのものだったんです。不幸なことに彼女が亡くなってしまったタイミングで、友人が「カフェをやってみたら?」と言ってくれて。ところが私は、正直その時期、飲食をやるつもりはあまりなくて……』
『お声をかけてもらってからも、 飲食業とはまったく違う仕事に就いていました。が、一年ほど経ったある日、ある別の友人が声をかけてくれたんですね。「あなたがやりたいことを実現してくれそうな 人がいる」って』
『話を聞いてみると、陶芸家としても活動しながら、大工さんとしても働いている方らしくて。県内のお店を何軒も手がけているらしく。なんとなく、少しだけ話を聞いてみることにしたんです。そうしたところ、きっと私が好きなテイストを叶えてくれるんじゃないか、と思って。背中を押してくれそうな気がしたんですね。それならちょっとやってみようかなぁと思い始めたのが、このお店のスタートでした』
“文化を許容する街・結城市だからこそ、あたたかな人のぬくもりが感じられる”
店内の棚やお庭に目をやれば、どことなく「昔のお家」の名残をとどめているような。ちょっぴり傷が見えるクラシカルな木枠、軒先に飾られた石柱には、以前住まれていたというご友人のお母さまの「生活の匂い」が香ってきます。
『改修前は、お庭に物干し台があったり、テレビや洗濯機があったりもしたんです(笑)。友人のお母さまがついさっきまで生活していたような感じがして。いまテーブルやチェアを置いているところは畳の部屋だったり。「本当にお店ができるのか……?」と不安になったこともありますが、無事にカフェとして完成しました。2017年のことですね』
よく陽の光が入る、お庭に面した窓をぼんやり見ていると、須賀さんがにっこり笑いながら嬉しそうに、店名の由来について話してくれました。
『お家の片付けをしている際、あれはたしか5,6月だったかな?風を通す為に雨戸を開けると、 うぐいすの元気に鳴く声が聞こえてきて。それを聞いて、店名を『+cafe うぐいす』にしようと決めたんです。結城の街はよくうぐいすが鳴くところで。うれしくなりましたね』
終始楽しそうな面持ちで創業当初の話をしてくださる須賀さんに、「苦労したこと」について聞いてみます。ちょっと意地悪な質問だったかな? と思っていたところ、やっぱり須賀さんの表情は笑顔のままでした。
『実は私、オープンの一週間前にとあるきっかけでぎっくり腰になっちゃったんですよ(笑)。どうしようどうしようと焦りつつ、SNSでヘルプサインを出してみたんです。「助けてください〜〜!」って。そうしたところ、七人ほどの方々が応援に来てくださって。今思えばとんでもないハプニングでしたが、たくさんの方々の愛情を感じた瞬間でしたね』
『すごくあたたかな、人のぬくもりを感じました。私ひとりじゃきっと、この店はオープンできていなかったと思います。県外からもたくさんの方々が集まってくださって。今も変わらず、集客やPRはSNSやブログが中心ですが、結城の方々もすごくあたたかな方が多いですね。新たにオープンしたこの店にも、初日には多くの方がいらっしゃいました』
『つくづく思うのが、結城は “文化を許容する街” だ、ということですね。伝統工芸や歴史的な街のつくりを、今でも大切している街なんです。だからこそ、新しいものにパッと飛びつくようなことはあんまりなくて。ただ、「人や店そのもの」を理解しようとする気持ちが、結城の方々にはある気がします』
『新しい文化から距離を置くのではなく、それをじんわりとでも許容してくれる。そうして認めてくださった際には、まっすぐな気持ちで、末長く大切にしてくれる。それは、結城の街で店を開いて良かったと思える理由のひとつのような気がしていて』
「人のつながり」が形になっていく、みんなの “居場所” として
須賀さんのお話を聞いていて、ここはいわゆる “飲食店” ではないのだな、という印象を受けました。もちろん、お店で提供していらっしゃるケーキや紅茶の味はお墨付き。ですが、それ以上に、須賀さんの口からは「人」の話が出てきていて。さまざまな「人」にまつわるお話が大半で、正直、取材の間に紅茶のことを聞くのを忘れてしまうぐらいでした。
『この店は、ただの「カフェ」にしたくなくて。ワークショップを開くのも作家さんの作品を置かせていただくのも、お客さまにお茶のお時間を楽しんでいただくのも、やっぱり「人」なんですよね。だから、お店のロゴは「人」の文字を三つ組み合わせたものになりました。 』と、須賀さん。
そんな彼女の表情は、昼下がりの陽光に照らされほんのり赤らんでいて、最初から最後までほっこりとした笑顔のままでした。
当初こそ、結城の街でお店をオープンする予定は無かったと話す『+ cafe うぐいす』の須賀さん。「人とのつながり」をきっかけに、自らのやりたいことを自分なりのリズムで叶えています。それはきっと、結城の街に漂う “新たな文化に対する許容” のムードがあってこそ。どんな人の挑戦にもそっと寄り添う街の気概が、須賀さんの試みを優しく包み込んでいるようにも思えました。それは、まるで店内に差す柔らかな光のよう。優しく穏やかで、温もりにあふれた「街と人とのつながり」が、『+ cafe うぐいす』を、これからもゆるりと支え続けていくことでしょう。
【取材先情報】
『+cafe うぐいす』
〒307-0001 茨城県結城市結城2271−3 / 0296-47-3579
https://cafe-uguisu.net/
Edited by 三浦 希
Photo by 塚本 直純